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Helpfulnotes記者探訪記

 【特集】「IC3からヒントを得た新しい情報科授業の作り方」
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千葉県立船橋豊富高校の実践例 -

 平成15年度から必須科目となって以来、高等学校の教員にとっては、いかに授業を進めていくべきか悩むところの多い情報科の授業。教員の方々にとっては他校での取り組みはどうなっているのか気になるところだろう。
  今回は、世界共通のIT資格、IC3の内容を参考にした情報科授業を行っているという千葉県立船橋豊富高校を訪問。授業を拝見し、担当の谷川佳隆教諭にお話を伺った。


千葉県立船橋豊富高校

 新京成線と東葉高速鉄道の北習志野駅、もしくは新京成の三咲駅からバスに乗ってしばらくするとたどり着く静 かな郊外。千葉県船橋市の北東部に位置し、周囲は畑や森林が広がり空気が綺麗に感じられる。下校時刻になると自転車にのって一斉に帰途につく高校生達の姿が印象的なこの場所に船橋豊富高校はある。

「最初、この学校に来た時とても驚きました。情報の授業がとても進んだものだったからです」  
ここで情報の授業を担当する谷川教諭はこう話す。

谷川教諭

 

 県立船橋豊富高等学校は、普通科の中に、文理コース、福祉コース、情報コースと3つのコースを設置。なかでも情報コースは平成4年度からいちはやく情報の授業をとりいれているだけあって、情報教育に関しては実績のある学校だ。


  最近では生徒達による世界共通のIT資格IC3への取り組み (昨年度は3名、今年度は7名の生徒が合格) が、新聞報道などに取り上げられ話題となった。




授業の始めに今日の課題について説明する谷川教諭

 IC3(アイシースリー:INTERNET AND COMPUTING CORE CERTIFICATION)とは、コンピューターに関する基礎知識とスキルを総合的に証明できる世界共通の資格試験。ハードウェアやソフトウェアもしくはネットワーク環境についての基礎知識のほか、代表的なアプリケーションに関する操作問題などが実技を含めて出題される。世界110か国以上で実施されており、国際的に信頼性が高い。

 IC3の内容を参考にしているという実際の授業を見せてもらった。今日は「基礎情報実習」の授業があった。

今日の課題。タイトルは「インターネットとホームページの概要」というWEBページを作成する
わからないところが出てきた生徒には駆け寄って教える谷川教諭の姿が


「今はまとめとして、1学期と2学期の内容を復習しているところです。今日の実習は1学期に勉強した。HTMLとスタイルシートに関する復習です」


2学期はプレゼンテーションについて学習した。PowerPointの学習を行ない、作ったものを発表したが、まとめではHTMLで作ったものの中にPowerPointのファイルをWeb化して、最終的には一つのWebサイトの作品にまとめるのだという。IC3でいうところのキー アプリケーションズとリビング オンラインの分野の内容が包括されている感じだ。キー アプリケーションズは代表的なアプリケーションの操作について、リビング オンラインはネットワーク環境やインターネットなどに関する内容を含んでいる。

「えーと。それではWordで入力した文章を"Body"の部分にコピーペーストして下さい」

授業のはじめに今日の課題について谷川教諭のほうから簡単な説明があった。「インターネットとホームページの概要」というタイトルのWebページを作成する課題だ。はじめにWordで「インターネットとホームページの概要」に関する文章を作成する。それからその文章をWebページ上で見れるようにするため、Webページを作っているHTML言語での「Body」の部分にタグとして貼付ける。貼付けた後、文字の装飾や図を入れる位置などを、タグを用いて指定していく。

 難しいようだが、今日は一度やったところの復習とだけあって生徒達は比較的スムーズに課題をこなしている。しかしたまに行き詰まると手を挙げて谷川先生や講師の方に質問。教えられる方も教える方も真剣だ。

今年大学を卒業したばかりだという講師の男性(入口付近)も一緒になって教えていた。

 谷川教諭の傍らで一緒に授業を教えていた講師の方に話を聞いてみた。今年大学を卒業して講師になったばかりだというが・・・。

「最初は自分なんかよりよっぽど生徒のほうができていたりして大変でしたよ。かなり進んでいるのがわかりますね」
 出席率もとても良いと言う

「実習の授業は1回休むと次がわかりにくいですからね。生徒達も熱心だと思います」
 ちなみにこのコースは、1年から2年に上がる際、希望する生徒のみ来るそうだが、その際に適性検査などもあるという。もともとパソコンに強い生徒も多いのかもしれない。自分の興味を生かした勉強ができるわけか。

 50分間の授業が終わると、生徒達は各自確認の印をもらう。課題をしっかりやり遂げてなんだかとても満足そうだ。将来はやはり技術者になるのだろうか。

生徒達の画面を見る目は真剣だ。

「1年で必須の情報Aの授業はもっと高度な内容をやることもありますよ」 普通科全員参加の必須の授業だが、各教科にリンクした内容でコンピューターを使ってみる内容らしい。


 例えば理科の分野だと自分の声をコンピューター上の数字で表してサンプリングし、それを実際に聴くなどといったことも行なう。数学の分野だとグラフを書くのにパソコンを使用する。パソコンに親しみながら数学の内容も学んでいける仕組みだ。

情報コースの教室は生徒用に約40台のパソコンが設置。
39人の同コースの生徒が一人1台使用している。

 情報コース3年生の「数学U」の授業で作るものだという簡単なプログラミングを用いたじゃんけんゲームも見せてもらった。VBで「If Else」構文で乱数を用いたプログラミングを行い、グーチョキバーのボタンを作成する。単純なゲームだが自分で作ったものと考えればなかなか楽しい。

  こうした事を教える際にフローチャートなどは用いないのでしょうかと聞いたところ 「プログラミングは簡単な事をたくさん覚えて積み重ねていってもらうことを大切にしているんです。フローチャートに関しては私も教えるべきかどうか悩みました。しかしまだ今の段階ではそれはしなくていいと思い、結局短めのプログラムをなるべく量多く覚えさせるようにしたんです。楽しいですし、生徒も達成感を味わえますからね」


 じゃんけんゲームを見せてもらった後、教科情報の準備室に行き、まとめていくつかの質問を谷川教諭にさせて頂いた。


--他校と比べると随分内容的に高度なようなのですが、大体どの位の水準を目指して授業づくりを行っていらっしゃるのですか?やはりIC3を基準にした授業づくりを行っていらっしゃるのですか?

谷川教諭:そうですね。それよりも上の事をやることもあるし、逆にちょっと技術的なところが抜けているところもあるのかなという事もあります。でもバランスを考えながら全員がIC3に受かる位の能力はつけたいし、プログラミングも出来るようになって欲しいし、Webとかもわかってもらいたいなという感じですね。幅が広いですけど・・・今の段階である程度、情報の基本は押さえて欲しいです。あとは社会に出てから身につけてもいいですし、大学とか専門学校とか行って身につけてもいいですしね。


--他校の情報科の先生は学習指導要領が抽象的なので困っているようですが・・・。谷川先生から見て何かアドバイスできることありますか?またどうしてIC3を参考にした情報科授業を行うようになったのか教えて下さい。

谷川教諭:そうですね。授業の進め方はやっぱり皆悩むところではありますね。初めて導入する教科は、指導要領で到達目標をあいまいにしかできないところが多いとは思います。小中高校での情報教育の指導内容をある程度体系化して欲しいですね。

 前の先生から引き継いだ部分はあるにせよ、私も最初はどのように授業を行っていけば良いのか悩みました。悩んだ末にパソコンやコンピューターに関する色々な本を読んだり、情報関係の研修などにも参加しました。資格試験について調べたりする中でIC3と出会いました。勿論、情報科の教科書も、教科書は教科書でとてもいいとは思います。ただ私は
IC3のテキストを見て、今の段階でこれ位勉強しておいたほうがいいかなと思ったのです。それでIC3の内容に沿った授業を行おうということになりました。

 
IC3は、ちょっと情報の科学分野が抜けているのですけど、それ以外は本当にバランスよく入っているので・・・。Word、Excel、PowerPointがあり、コンピューターのOSの話やモラルの話などもありますし、トラブル対応の話もちょっと出てきます。だからこれ全部とは言わないまでも、このだいたいできればと思うんですよね。私は色々なところで情報の単位を増やしましょう増やしましょうと言っているのですが、単位を増やして本当は全部できるようになれればいいと思っている位です。IC3の主催社であるオデッセイ コミュニケーションズも「自立したパソコンユーザーのための共通資格」と言っていますが、確かにパソコンユーザーとしては自立できるようにならないとまずいですよね。「情報A」を学んだのにインターネットもわからないしパソコンも使えないというのではやはり困りますから。

 やはり「情報A」が情報端末を使えるという事を示す情報端末の免許に変わる位の教科になって欲しいなというのが思うところです。私としても本当に免許になるくらいの内容を教えられるといいなという感じですね。


-- IC3以外の他のIT資格については考えなかったのですか?

谷川教諭:そうですね。他にもP検とか色々とありますが・・・。正直どっちがいいか悩んだのですが、ただ
IC3はまだどこもやっていない資格でしたから興味がありました。国際資格でもありますし、生徒とも話したら「やる!」と言われまして、それでこの際思い切ってやってみようということになったのです。やっぱりうちの学校は駅から遠いので・・・。だからちょっと違うことをできないかと考えていたところ、IC3のお話を頂いたので、そこにのってしまったという感じですね。

 

--生徒さん達がIC3を受けたという事に関しては新聞報道などでも取り上げられて話題になっていらっしゃいましたよね。

谷川教諭:そうですね。それで
IC3をとりたくてうちの学校に来るといった生徒も出てくるようになりました。平成17年度の1年目には3名が挑戦し、2年目には8名が挑戦。今年は3年目ですが、今度は10名が挑戦しますから大変です。

 

--ご健闘をお祈りしています。ところで話は変わるのですが、教科「情報」を学ぶ利点はどんなことがあると思われます?

谷川教諭:色々とあると思いますが、これだけ便利になった情報端末に対してどのように向き合うべきなのかと学べるのは「情報」だけですよね。もう「情報」というのはITではなくてICTと言われるようになって、コミュニケーションのツールとしても成り立っているじゃないですか。ケータイのことを今では「携帯電話」ではなく「ケータイ」と言っていますし、たまに電話はしているけど何かコミュニケーションをとる時にはメールをしているとか、ネットから情報を手に入れたりとかしてますよね。情報端末を正しく使い、デジタルコミュニケーションのあり方を学ぶのは必然的なことだと思いますが、やっぱりこの教科しかないのかなと思いますね。他教科でも情報端末の使い方について学べればいいのですけど、情報端末を使うだけで終わってしまいそうなので・・・。情報端末を楽しく使ったり、デジタルコミュニケーションとか、デザインとかプログラムとか色々なことができるのはやっぱり情報だけと思いますね。情報化社会であるからには、「情報」の勉強がなくては駄目だと思います。


--商業高校で従来あった情報処理の科目とはどのように違ってきていると思いますか?

谷川教諭:商業高校の場合、やはり検定ですとか世の中に出て実務ですぐ役立つような、あくまで実用性がメインだと思うのですが、それだけでなくてもっとモラルですとか、安全に使うためにはどうすればいいのかといったことを併せ持って広くやっていきたいなと思っています。ただまだ試行錯誤の段階でして、しっかり教えきれていないところも多いかもしれません。

 

--それでは今後の課題としては、そういった情報安全みたいな部分もしっかりやっていきたいといった事がまず第一ですか?

谷川教諭:今の段階でも勿論教えているのですが、ただ、そういったネット犯罪みたいなものは日に日に変わるので、教師側がそうした事を研修などでちゃんと学んでそれをどうやって生徒へ教えていけばいいのかなというのが問題です。昔ですと掲示板の問題があって、その次今はブログになって、フィッシングがあって、今ですとボット(ウイルスの一種で、コンピューターを、ネットワークを通じて外部から操ることを目的として作成されたプログラム) とかプロフの問題というものがあるのですが、そこまで我々は追いついているのかなと思います。新しい事が出てくると、どこの中に入れてどう教えるのかといったことが悩ましいですから。でもまあ折りをみてちゃんとしたところで教えて授業のはじめ10分前、5分前でも少しずつふれて情報安全をやっていきたいという感じですね。


--情報コース全体で何か情報教育に関する特別な活動を行なっていたりしませんか?

谷川教諭:夏休みに近所の北部公民館の主催で、学校に地域の人達をよんだ形でのパソコン教室をやっています。二日間の同じ講座を2回やって計4日やるのですけど、教員のほか情報コースの生徒がアシストにつき、「教える」立場になって地域の人達とコミュニケーションをとるのです。


--それは生徒さん達にとってはとても良い経験になりますね。でも「教える」立場だなんて凄いですね。

谷川教諭:生徒達のレベルは高く、小中学校の先生達よりよっぽど出来る生徒もいますからね。実を言うと、この学校は小中学校の先生達のITスキル研修の場になっているのですが、そこでもうちの情報コースの生徒達がアシストとして活躍してます。文科省の方で「一人1台コンピューター」のスローガンを掲げたICTに関する政策が進められていますから。夏休み前のアンケートで十分にパソコンを使えないという事でひっかかった教員は夏休みを費やして必死で研修を受けているわけですよ。午前中3時間、午後3時間と一日6時間の研修が二日間ありますが、終わった後、うちの学校の生徒は優しいねと言って帰っていったりしてくれますよ。生徒の方も快くやってくれたりしますから。


--お互いにとって勉強になるから良さそうですね。ところで情報科の教員の研修はどこでやるのですか?


谷川教諭:現在多くの方が参加できる公式な研修はないようです。今年度からきた先生は、前の先生がやっていたことを引き継いだり、学校によっては学校側から指示があったり、その人任せだったりする事もあると思うのですが。ただまだ始まって5年目なのでそれほど内容に入れ替わりはないですから前の先生から引き継げば大体分かるのではないかと思います。私は5年前にこちらの学校へ赴任してきたのですが、教科「情報」が必須になる直前だったので、自分で希望してExcelやAccess、VBAなどの研修を受けたのみで、教科情報の研修は受けていません。あと専門学校に行ってどんな風に教えているのか聞いたり、教科書会社さんが色々やってくれた研修にも参加しました。


--それは大変でしたね。

谷川教諭:
最初来た当初は、正直とても不安でしたよ。ですから色々と聞いて回りました。でもここへ来たらやることはある程度決まっているから大丈夫だなと思いましたよ。それでも情報コースは自分でちょっと工夫して教えたいなと思って今の形にしたんですけどね。


--必修である「情報科」のほうはどの学校でもやっていますから、情報コースのない他の学校の情報科の先生は大変ですよね。


谷川教諭:2単位ですからなんとかやっているのではと思うのですが、それにしても私自身も含めてほとんどの先生は高校・大学で「情報」の科目を教えてもらっていませんから。自分が教えてもらっていない科目を教えるのって本当に大変ですよね。それで私自身も自分で研修とか希望したりして色々とやっているのですが・・・。


--他の学校の情報科の先生へ何か参考となるようなアドバイスがあれば教えて下さい。


谷川教諭:そうですね。やっぱり一人で悩むより、本を読んだり、研修会などに出てみたり、他の人とコミュニケーションをとって色々なところから情報を得て「こういう風にしていけばいいよ」とアドバイスをもらったりするといいのではないかなと思います。うちに今講師としてきている彼も最初は生徒のほうができるといった状態でしたが、今ではしっかりやっていますから、いい実例ですねよ。私の方も相談にのるとはいかないまでも、授業自体はいつでも公開していますから、見に来て頂ければ何か参考になるかもしれません。



 谷川教諭は11月18日に都内で開かれた「IT Education Initiativeフォーラム」(オデッセイコミュニケーションズ主催)という情報教育を考えるフォーラムに行ってきた。そこで出会ったのが「コン盲」という言葉だ。
 韓国での情報教育の取り組みについて話していた韓国出身のヨム・ジョンスンさんという方が 「アナログ時代の文盲も怖かったが、今度はデジタル時代の『コン盲』が怖い」という話をしていたのだという。パソコンなどを使えるか使えないかで情報格差が広がってきている問題についてだが、

「『コン盲』という造語を聞いたとき私ピンときまして、この『コン盲』という言葉をなんとなく流行らせたくなりました。『情報格差』というより『コン盲』という方がピンときますから、それでヨムさんに『この言葉使っていいですか』と聞きましたよ」

 デジタル時代の「コン盲」。深刻な問題だ。子供達がデジタル社会としっかり向き合っていくためには、学校の段階でしっかり情報教育を行ない、子供たちを「コン盲」にならないようにさせなくてはならない。便利さの反面にある不安。それを取り除き、自信を持って今の社会を生きさせるために必要な事だ。


・千葉県立船橋豊富高等学校
 http://www.chiba-c.ed.jp/toyokou/
・IC3公式サイト http://ic3.odyssey-com.co.jp/index.html


                  【取材/執筆:神田麻里子】

 

*上記写真のうち生徒が映っているものは、セキュリティ保護の観点から人物特定ができないよう画像処理を施しています。



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