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Helpfulnotes記者探訪記

 【特集】理科検定は学校を救えるか?
      
-理科学力低下への提言 -

 理科学検定、いわゆる「理検」は、子どもたちの理科離れや理数能力の低下の問題が取り沙汰されていた背景を受けて1997年に設立。以後順調に普及し、2006年の時点で2万2千人の受検者を数え、1900を超える学級や学校、塾が団体受検を行っている。今回はこの「理検」を主宰する日本理科学検定協会の高田大進吉さんと中島博文さんにお話を伺った。

◎「考える理科」への模索

――設立の目的は何だったのでしょうか。

中島博文氏

 

中島:1990年代から子どもたちの理数離れが問題視されてきたわけですが、一方で、「理科が好き」という子どもたちの声も聞こえてきていました。本当にそういう問題があるのか、あるとしたら何が問題なのか、それを実証していきたいという思いがありました。


高田:日本人というのは、自分を表現するのが下手だといわれますよね。それでも絵や歌というのは、見せて聞かせてアピールできる。でも理科が得意というのはどうやってアピールすればいいのか。「英語が得意」を形にできたように、見える形にする。それが理科検定につながっていったと思います。つまり学習した成果が見えるためには、資格としての要素が要になると考えたのです。

 

――理科的な思考力を検定として成立させる難しさがあったのではないでしょうか。

高田大進吉氏


高田:当初は苦労しました。でも試行錯誤していく中で、いくつか特徴を出すことで可能だと言うことがわかってきたのです。特に時事的な事柄は検定ではすぐに取り入れることができます。

 例えば最近の事例では、冥王星が惑星から外れたということがありました。これを教科書で修正するにはずいぶん時間がかかります。あるいは、酸性雨の原因として二酸化炭素が問題になっているのはここ数年のことです。つまり時代と共に検証され結果が変わり、昔の知識では役に立たないものも出てくる。そう言ったものも、検定ではうまく取り込んでいけます。また、経済や社会の問題と結び付けられるような出題もできます。例えば世界的に見た時に日本の港は他のアジアの港と比べても経済的に非常な勢いで衰退し始めている。これはとても重要な課題で、地形や構造上の特徴が少なからず影響していると思われます。ところが港湾というものを科学的な視点から学ぶチャンスは学校ではなかなかありません。こうしたことも検定なら盛り込めるのです。


――選択問題だけでなく記述して答える問題があることも大きな特徴のように見えます。

中島:確かに、センター試験などマークシート方式の選択問題に慣れている子どもたちは最初は戸惑います。実際、単語だけの答えもありました。しかし、続けていくと、過去の問題の解答例を参考にして勉強しますから、どう表現をしていかなければいけないのかというところも学んでいきます。まだまだ表現力の不十分な解答もありますが、本質的なところはわかっていると思われれば、意欲や理解度をできるだけ汲んで判断し加点していきます。

高田:これはある意味では採点評価への挑戦ですよ。
 この国は、問題を作る際には大学の先生などが集まって、充分に時間をかけて検討して作る。けれどそれは、結果として機械で簡単に採点するためです。これに対して我々は、問題作りと同じように採点にも時間をかけようじゃないかと考えたのです。そのためには、それなりの準備と力量が試される訳ですから、結局時間との戦いです。本当にこの模範解答でいいのだろうかとも悩みます。でも、そんなふうに問題を通して子どもたちとペーパー上で対話をすることが大切だと思うのです、子どもたちの解答をみると時々思いもよらない観点から書いてくることがあって、それは逆にこちらにとってはうれしい驚きであり発見です。◎(二重丸)ですよ。時間はたいへんですが、そうした覚悟をしてはじめて記述の問題を出せると思っています。先生たちにもぜひ、その時間をかけてほしいですね。

――設立から10年経ちました。広がりはどうですか。

中島:ありがたいことに、受検者数では、これだけ検定数がある中で、
年々増加傾向にあります。

 もちろんスタート当初は全く知名度もないですから、先生方の間にも、果たしてこれがいいものなのかどうかという疑問はあったと思います。しかし私たちの出題する問題を通して、これは面白いと徐々に受け入れていただいたのではないかと思います。さらに、当の子どもたちの、理科が好き、自分の力を試してみたい、もっといろんなことを知りたい、学習意欲が高まってきているといった声も聞こえてきています。ただ、日常の授業の中で、何をどう取り入れ活用していったらいいのかというところまで、まだまだ試行錯誤というのが、現状ではないでしょうか。一つ感じるのは、今の学校現場では、理科において思考する時間が十分にとられていないのではないかということです。子どもたちは観察や実験は大好きですから、おそらく先生としてもやりやすいのでしょう。しかし机に向かって考える時間は、圧倒的に少ないと思うのです。子どもたちとしては知りたいことがたくさんあるのに、それを我々大人が教師としても親としても、その本質のところを教えきれていないのではないかという気がします。



◎「理科は苦手」に効く薬はあるか

――検定を通して実際に見えてきた理科の学力低下の問題についてはどうでしょうか。

高田:一番問題だと思うことを指摘すると、「関係」ということがあげられます。それは親子の関係、子どもと教師、地域や社会との関係、そこに非常に大きな問題があるように見えますね。

 子どもの理科の学力低下や理科離れと言いますが、それはそもそも教師や親たちがそうなっているのではないでしょうか。というのも一番理科に対する苦手意識を持っていたり、興味関心の薄い層はどこなのかと見てみると、年齢、性別で言えば小学校の女性教師やお母さんの世代が浮き上がってくる。これが最も大きな問題だと思うのです。そうしたときに、例えば中学や高校の理科の先生たちが、もう少し教える対象を大きくとって、学校やコミュニティセンターなどで、ことあるごとに科学の面白さを親たちや地域の人たちに伝えていってはくれないだろうか、そんな大人たちの学ぶ姿勢や意欲が、子どもたちに伝わることが重要なのではないかと考えています。これまでの社会の構造では、大人は大人、子どもは子どもと年齢で分けられて、勉強するのは子どもだけです。そうではなくて、教育の対象を大人までを含めて考えていくべきではないかと思います。


――実は私も理科が苦手と感じてきた一人なのですが、その理由を考えてみると、 自分の住んでいる世界との接点が感じられなかったからではないかと思います。環境の問題や食の安全など、 実際の社会的な問題と合わせて考えてみると確かに興味関心をもって考えられますよね。

高田:環境問題などは、まさに喫緊の問題ですから、我々社会人が、もう少し科学という観点を含んで、危機意識を持たなければならないことですし、それは理科と言うものを見直す契機になると思います。

 もう一つ重要なのは、高齢社会に向けた取り組みです。人間は年をとると、覚えた事柄が徐々に思い出せなくなってきます。しかしこの「思い出す」と言うことが脳の活性化につながるわけです。また、自分自身の幅を広げることも重要です。年齢を重ねていけばそれなりに理解力もついてきますから、子どものときにはわからなかったことでも、改めて聞いてみると意外に理解できるものです。それはその方にとって新たな発見や知識の幅を広げる手助けにもなりますので、非常に有用だと思っています。検定の問題はこのようなことも意識しながら幅のある問題づくりを心がけています。社会人が受けても充分に面白いと思われる問題構成ですよ。


――教師たちに向けてなにかアドバイスはありますか?

高田:先生たちは本当に大変だろうと思います。特に小学校の先生など、理科でも音楽でも体育でも何でもやらなければならない。スーパーマンじゃないんだから、全部が得意だなんてあり得ないですよね。でも一つだけ言えることは、教えている側が、楽しめているかなということです。我々が問題づくりをする時には、こんなの考えてくれたらいいなとか、ここをこう答えてくれたらぴったりだなとか、ある意味で楽しみながら期待しながら作っているわけです、そういう感覚で授業ができているだろうかという疑問は感じています。それから、世の中の変化に対して、敏感に反応できているだろうかということ。さらには教師同士がうまく情報交換をしているだろうかということです。

 例えば、我々は母体を同じくする数検との両輪で動いていますので、数学の分野から理科的な分野に、あるいは逆に理科から数学に対して、ここを教えて欲しい、ここを意識させて欲しいというお互いの情報交換ができます。これは非常な強みです。学校現場でも数学側と理科側が関係を密にして、共通の対象としての子どもに教育がなされているだろうかということがやや疑問です。これは我々が体験してきたこととして、教師の皆さんに提案したいことです。例えば、ある大学では、数学と物理を連係させて、新たな命題に取組んでいる。それはそうしなければならない課題が目の前にあると言うことなんです。学校現場でも理科と数学の先生方の交流を密にすることで、もう一度子供の教育を見直してみる必要があります。

 そうはいっても、これから理科の授業をどうしようかというときには、ぜひ、理科学検定を利用してみてください。子どもというのは、自分たちの身の回りのことやテレビなどで話題になっていることについては、興味関心をもっています。理検には日常生活や時事的な事柄に関連した問題が盛り込まれています。また、中学校の1、2年生というのは、目の前に受験がありませんので、目標が薄れがちです。そんな時にも、検定を利用されることで目標を作ってあげるというのはいいと思います。

中島:最近ではお子さんと受検されるお母さんも増えてきています。 高田:そう、それから勇気を持って一緒に受検される先生もおられます。「勉強しなさい」と口でいうだけではなく、自ら学ぶ姿を見せるというのは、たとえ落ちたにしても子どもたちに対してすばらしい影響があると思います。



◎理科教育が世界を変える

――今はIT産業でも他の分野でも、日本の産業は試されている時代と言えます。こうした時代に向けて理科学検定の今後の展望は?

中島:日本は科学技術立国と言われてきました。そうした背景には、やはり理科の存在が大きいのだと言うことを、子どもたちにももちろん大人にも知って欲しいですね。それがあって日本の経済も成り立っているわけですから。そしてこれからの日本を背負っていく子どもたちに、検定を通して、確かな理数の力を身につけていって欲しいと思います。

高田:一つには、先ほど申し上げた「関係」というキーワードが非常に大事だと考えます。それは親と子、学校と地域社会だけではなく、日本と各国の関係も含めて。

 それともう一つは、どこまで子どもたちにぜいたくな時間を作ってあげられるだろうかということです。現代社会では、とかく速いこと、大きいことを良しとするような風潮があります。そうではなくて、時間を止める、遅らせるというところから教育や社会と言うものを見直してみる必要があるのではないでしょうか。小さい子ほど物事の理解のスピードは速いと言われています。だったら速くどんどんいろいろなことを詰め込めばいいではないかと思うかもしれません。しかし、それは同時に、子どもたちのいる時空間と我々の考える時空間が全く違うということでもあります。そして子どもたちは一人ひとりが自分なりのとらえ方で世界と向き合い、理解しようとしています。その中で、知りたい、わかりたいという気持ちが自らの内側からわき上がってくるのを、待てるような豊穣な贅沢な時間を作ってあげること、それを与えてあげることが我々がしてあげられることですし、しなければならないことだと思うのです。それを、記述式の問題や日常生活に即した問題を提供することなどを通して、今後も追究していきたいと考えています。

――理科学検定のサイトで、理科と平和のことに言及されていました。その言葉にとても感銘を受けたのですが。

高田:日本も含めた先進諸国は、その科学技術に到達するまでに、いろんな紆余曲折を経た歴史があるわけです、ところが発展途上国では、往々にしてその時間を持たず、いきなり先端の機器に触れるということが起きてきます。そこに何か危うさを感じるのです。

 例えば原子力のような科学技術の先端を行くものが発展途上国に入っていった時、それについての科学的な基礎知識が充分に国民に広まっていなければ大きな問題を引き起こすかもしれない。あるいは、経済的な理由で外国に生産工場を求めた時、そうした知見が充分に行き渡っていない国であれば、できた製品が安全ではなかったという形で、結局そのリスクと責任を負うことになるわけです。ですから我々がやらなければならないのは、理科学の知見、知識を、地球規模で共有していくこと、これまでにその積み重ねがないのだとしたら、それを持つ国が、相手が理解できるよう充分に時間をかけてそうした知の財産を共有できるような努力をすべきだと思います。先端の科学技術を使った製品ができてくればくるほど大事になってくると思います。それは本当の意味でグローバルな共通の課題でもありますし、それが結果的に世界平和に結びついてゆくのだと考えているのです。


【取材/執筆:佐々木尚絵】



●日本理科学検定協会
http://www.rikagaku.org/



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