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Helpfulnotes記者探訪記

  【特別インタビュー】
  
日本語復活への道
    =日本語検定から見えてくる教育の大きな課題=



 先生の言葉が子どもたちに通じない、文章題は無解答、「タメ口」の社用メール、話し言葉の論文など…。
 漢字の誤読で有名になった某国首相の例を挙げるまでもなく、今、日本語は明らかに危機的な状況にあると言える。
 コミュニケーションの基本中の基本である日本語の崩壊は、教育現場への影響も大きい。

 PISA(OECDによる国際的な生徒の学習到達度調査)の結果によれば、日本の生徒は設問や資料の解釈、記述式問題に課題があると指摘されている。こうした子どもたちの日本語能力への危機感を背景に、大手教科書会社である東京書籍株式会社が、2007年より「日本語検定」をスタートさせた。この検定は、漢字や文法のみならず、敬語や語彙、表記など、実際に日本語を運用する力をトータルに測ろうという画期的なもので、すでに各界から期待と注目を集めている。検定設立の経緯、そこから浮かび上がる日本語教育の現状、今後の展望などを、検定事業部の高瀬真一部長と作問担当の小高優佳さんにうかがった。


――なぜこのような検定を始めようと思われたのですか?


検定事業部の高瀬真一部長


高瀬:
私どもの会社は、明治42年から教科書を作っている出版会社で、今年は創立100年になります。この記念すべき時期に何か社会に貢献できるような新規事業を始めたいというのが一つのきっかけです。


――それがなぜ「日本語検定」という形になったのでしょうか?

高瀬:仕事柄、学校を回って先生方とお話しする機会があるのですが、そこでよく言われるのが、子どもたちが、算数の文章題や理科の実験の手順などの文章が理解できない。学校外の方と接する時に、きちんとした言葉遣いができないということです。


 実際、PISAなどの学力調査の結果を見ても、日本の子どもたちは、文章題や考える問題を解く力が落ちてきているですとか、無解答が多いなどと言われています。つまり問題文を読んで理解したり、表現したりする力が落ちてきているのではないかということです。

 一方、今の国語は、日本語そのものの運用能力をトレーニングするというよりは読解力や解釈が中心の授業です。子どもたちの日本語力の問題が指摘されていても、それに応えるだけの内容になっていないというのが率直な感想です。こうした現状に対し、教科書を発行している出版社の社会的な使命として、日本語検定が具体化していったのです。


――実際に検定を始められて反響はいかがでしょう。

高瀬:大きな発見は、日本語力については、小中高等学校だけではなくて、大学や企業の方たちも危機感を持っているということです。
 小中学校の状況はある程度事前に予測がついていたのですが、大学の初年次教育を担当されている先生方や、企業の新入社員や内定者の教育を担当されている方々から、予想を遥かに上回る反響がありました。

 企業ですと電話の応対の仕方、外部に提出するような書類の誤字脱字などは、即トラブルに発展してビジネス上マイナスになってしまうということもあって、学校よりもある意味切実ですね。ですから、企業のトップの方などがこの検定に注目されて、会社ぐるみで受検するというところも多いようです。最初から協賛していただいている時事通信社さんに加えて日本経団連事業サービスさんからも後援をいただきました。さらに、検定の内容を取り入れた、企業での研修や通信講座もスタートしています。現在、NHK学園をはじめとし、3社の通信講座があります。

 一方、検定問題を作っていく中で、大学の先生方とも話をする機会が増えてきたのですが、特に大学で頭を抱えていることとして、推薦入学やAO入試の導入によって、受験勉強をせずに入学する学生が増えてきていて、全体の基礎的な学力の低下が見られるという問題があります。レポートなどで話し言葉と書き言葉の区別がついていないとこともひとつのあらわれであると思います。友達へのメールと同じ感覚で書いてしまうのでしょうね。そのため、大学1年生に基礎ゼミなどを開いて、半年から1年間、中学校レベルの英語や数学、国語の授業を行っている大学が増えてきているようです。その際の課題として、英語や数学は中学校の教科書が使えても、国語に関しては適当な教材が見当たらない。さらに、日本語そのものを指導できる教師が少ないという問題があるようです。こうした現状も踏まえて、日本語の運用能力を身につけさせる大学の初年次教育用のテキストもつくっているところです。


――問題を作られている立場から、苦労されている点、気づかれたことなどはありますか。

作問担当の小高優佳さん

小高:この検定では特に、実用的な日本語の運用というところに主眼を置いていますが、小学生から社会人まで受検層が幅広く、各級に対応した生活場面を想定した問題を量産するというところに苦労しています。

 検定の結果をみて気づいたのは、一つには、多くの人が同じ間違いをしているということです。つまり、誤答の選択肢がいくつかある中で、一つの誤答が他より突出して選択される割合が高いということです。時には正答率よりもその誤答の選択率の方が高かったりします。特に敬語や慣用的な表現の問題でこの傾向が見られますね。また、漢字の問題では、実際に書かせる問題になると途端に正答率が下がります。パソコン入力での変換ミスを指摘する問題も、こちらの予想よりかなり低い正答率でした。これは、パソコンなどの普及によって、何もないところから自分で漢字を書くということが少なくなってきている影響ではないかと思われます。

 問題を解いてみると、それまで間違いと気づかなかったことが間違いだったと気づきますし、自分の言葉遣いや人の言葉遣いも意識するようになります。私自身、内定者のときにこの検定を受けて、自分がいかに日本語をわかっていなかったか、いかにいい加減に使っていたかを思い知らされました。この「意識する」ということがすごく大切なのではないかと思います。


高瀬:昔のように地域社会に豊かな人間関係があった時代は、祖父母や近所の大人たちと接する中で、正しい言葉遣いを身につけていくトレーニングができました。しかし、核家族が増え、親しい友人としか付き合わないというように自分の世界が狭まってくると、家族の中や友人同士の関係が中心になりますので、誤用であろうがとりあえず意図は通じているし、敬語も必要ないのかも知れません。親子関係は「お友達のような」関係が理想とされているくらいですから。ところが一歩社会に出れば、日本語には共通の約束事があり、正しい使い方というのがあるわけですよね。それを共有できていないことが、様々なコミュニケーションのトラブルにつながっているのではないかと思います。


――そういう意味では、日常の授業で、日本語力を身につけることがますます重要になってきますね。

高瀬:学校での授業は学習指導要領で内容が決まっていますが、残念ながら現行の学習指導要領には、日本語の運用能力がきちんと位置づけられていません。これは大きな問題です。ただでさえ忙しい先生方がこれ以上何かするというのは本当に大変なことだと思います。

 しかし、現状を考えれば、学校教育でしっかりとした日本語力を身につけさせなければ、少なくとも勉強方法をきちんと教えなければ、今後ますます状況はひどくなってくると思います。検定を受けたからすぐに日本語力が身につくということではありません。受検をきっかけにまずは原理原則をきちんと知り、日本語力をみがくための方法、例えば語彙を豊富にするにはどうしたらいいのか、正しい敬語の使い方はどうしたら身につくのかなどを考えてトレーニングをする必要があると思います。



――日本語力が落ちているということが、あちらこちらに影響が出ていることはわかっているはずなのに、それが現実の学習指導要領にきちんと反映されていないということが問題ですよね。そもそも学校の先生自身が正しい日本語を使えているか、教えられるのかという問題がありそうです。

高瀬:確かにそうです。少なくとも現場の先生たちには、日本語力をみがいていく努力をしてほしいですね。特にこれから先生になっていく学生たちに、大学教育の中で自分が日本語をみがく、教えられる先生になっていくようなカリキュラムを取り入れてほしいと思います。



――読書をすることも大きな手助けになりますよね。

高瀬:小学校の、特に低学年の子どもにとっては、運用能力を高めていく大きな手段ですね。子どものときから読書の習慣がついている子と、それがない子とでは、大きな差が出てくると思います。例えば、言葉のセンス、表現力の豊かさにも差がついてくると思います。


――この検定に関わり始めて、ご自身が変わられたことはありますか。

小高:作り手としての責任感が出てきたかなと思います。これまで、正直なところ自分の言葉遣いを意識したことはあまりなかったのですが、問題を作っていく中で、日本語の専門家の先生方ともやり取りをしなければなりません。そうなると否応なく自分自身の至らないところを意識します。それに、出題者側である以上は、きちんとした言葉遣いができるようになりたいですし、語彙ももっと広げていきたいと思うようになりました。

高瀬:
いろいろなジャンルの本をよく読むようになりましたね。これまでは、どちらかというと科学的なもの、それも最新のニュースが載っている雑誌が好きだったんですが、最近は、昔教科書で出てきたようなものを読み返したり、あらためて古典などを読みたいと思ったりするようになりました。


――今後の日本語検定の展望はどのようにお考えですか。

高瀬:おかげさまで、小中高等学校だけでなく、大学や企業などにも、潜在的な需要があることがわかりました。これがきっかけとなり日本語の国民的なムーブメントが起きればよいと考えています。
 これまで私どもがお付き合いさせていただいてきた小中高等学校には、日本語のトレーニングをカリキュラムの中に位置づけられるように、学校で学習しやすいツールや場を用意していきたいと思っています。

 それから、日本語運用能力アップのための勉強法を機関誌等でアナウンスしていくこと。そもそも日本語力は問題集を1冊終えたからといって飛躍的にアップするものではありません。そのことを前提に、日々の言語感覚をみがいていくことの重要性、そのみがき方を、広く先生方にも理解していただきたいですね。教科書は学習指導要領を逸脱するわけにはいきませんので、機関誌や直接営業などで、先生ご自身や子どもたちの日本語力を、どう鍛えていけばいいのか、考えてもらえるようにしたいと思います。


――本日はありがとうございました。


後記:日本語検定のサイトは、http://www.nihongokentei.jp/ 過去の問題例が見られるほか、現在の実力を知るための日本語診断にも挑戦できる。


取材/執筆:佐々木尚絵



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