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Helpfulnotes記者探訪記

  【特別インタビュー】
  
トトロの街で塾を訪ねる
    =「個別学習塾白鴎」(埼玉県所沢市)の井清人氏に聞く=

 日に日に秋が深まって、いよいよ高校受験は本番間近。受験生にとっては、秋空を見上げてはため息をつく日々を過ごしていることだろう。

 今回は、そんな受験生たちと36年あまりにわたって接してこられた個別学習塾白鴎(はくおう)の井清人(い・きよと)氏に、これまでのことや現在の塾の現場について自由に語っていただく。

 同塾は西武池袋線小手指駅が最寄り駅。地域に根ざし、生徒ひとりひとりに秘められた力を見出してくれる同氏の手腕には定評がある。ただ単に成績を上げることに留まらず、子どもたちが生き生きと自分の時間を過ごすことを見守ってくれる愛情あふれる先生だ。

  日本中が緊張した大型の台風17号が去った10月某日、「となりのトトロ」の舞台としても知られる埼玉県所沢市のご自宅に伺った。同市は、都心へのアクセスが便利なうえ、自然にも恵まれた街である。同氏のご自宅は、西武池袋線の最寄り駅から少し離れた閑静な住宅街にあった。道すがら、小さな個人商店が路地の角に点在しており、その角を自転車に乗った中高生たちが元気に走り去っていった。

 ご自宅のドアを開けるなり、同氏は「遠かったでしょう!」と、記者を労ってくださった。初対面から相手を笑顔にさせてしまうような、優しさをストレートに表現してくださる「先生」だ。

記者:初めまして。今日は、よろしくお願いいたします。
井 :こちらこそ、よろしくお願いします。


記者:しょっぱなから塾と無関係で恐縮ですが、「井」さんという名字は珍しいですよね?
井 :はい。そうなんです。電話ですと、必ず、聞き返されます(笑)。


記者:ご出身は?
井 :熊本なんですよ。特に、向こうで「井」姓が多いというわけではないでしょうが、親類には何人もいます(笑)。


記者:では、「井」さんという方を見かけたら、先生のご親戚の方かもしれないですね。
井 :その確率は高いと思いますよ。


★いち早く「個別指導」をとりいれて

記者:それでは個別学習塾白鴎(はくおう)についてお伺いさせてください。塾の名称はご自身でつけられたのですよね?
井 :はい。そうです。よく聞かれる塾名の由来ですが、そんなに深い意味合いでつけたわけではないんですよ。ただ、白い鴎の「白」は子どもたちの純粋さを表したつもりです。「鴎」は人に害を与えずに集まってきますよね。そこから、「白鴎」と名付け、末広がりにしました。


記者:清々しいお名前なんですね。「個別学習塾」というのは、当時からですか?
井 :はい、そうです。今は、町のあちこちで個別指導という「ロゴ」が流行していますが、私のところでは40年前にとりいれていました。例えば、5人の生徒のもっている力は違うということですね。同じ単元の中でもそれぞれが理解度は異なりますので。


記者:授業は、すべて個別に行われるのでしょうか?
井 :まず、全体で一斉授業をしたあと、個別学習をしています。


記者:生徒さんは中学生が中心でしょうか?
井 :そうですね。やはり塾という性質上、中学生、なかでも中学3年生が中心です。ですが、全体としてみると小学一年生から高校三年生まで在籍しています。


記者:まるで小さな学校のようですね。
井 :はい。さらに私のところは一教室主義です。8名から10名が教える側としましては限度ですね。


★世界一の阿蘇山で英会話デビュー!

記者:ところで、井先生のご専門は?
井 :英語です。


記者:塾を開かれたきっかけなど、お聞かせ願えますか?
井 :塾経営は、今年で36年余りになりますが、開講のきっかけというよりは、私が英語に興味を持ったことがその始まりかと思います。


記者:はい。
井 :1964年、つまり東京オリンピックの年なのですが、当時私は中学2生でした。そのときの新任の英語の先生の影響が大きかったと思います。今、このような仕事につくことができたのは、実に、その恩師のおかげだと思っています。私の故郷は熊本県阿蘇市ですが、ご存じのとおり、阿蘇はカルデラで世界的に有名な観光地です。当時の私は、将来は通訳士を望んで毎日英語学習に励んでいました。


記者:英語の先生に影響を受け、なんとか英語を仕事にしたいと考えられたのですね?
井 :はい。そうです。やはり、心に残る師との出会いは、子どもたちの心の琴線にふれたときに、大きな力を発揮させるものなのですね。そして、今でも心のそこに唯一な思い出として残っていることがあるんです。


記者:その当時のことですね?
井 :はい。オリンピツクが終わり、阿蘇山上に行き、一年間の英会話学習の成果を試してみようと、10分ほど、観光客のアメリカ人と会話をしてみたことがあるのです。


記者:先生の英語は通じました?
井 :ええ、通じました。嬉しかったですね。そのことがさらに、今の私の塾経営という立場に影響を与えたかと思いますね。とにもかくにも、恩師から受けた指導を、将来同じように子どもたちに与えたい、私と同じように、学ぶことによって得られる感動を味わってもらいたい......、それが私の英語塾の始まりです。


★今も昔も、本当の実力をつけてあげたい

記者:現在、高校受験の準備をされる生徒さんについてお伺いします。少子化少子化と叫ばれていますが、塾を始められたころの生徒さんと、今の生徒さんで、何か印象が違うところがございますか?
井 :そうですね、当時の子どもたちは何事にも自発的であり、より競争心が強かったような気がします。もちろん家庭学習はよくしていました。その具体的な例として挙げますと、小学生4・5年生で英語検定4級に合格するのは当然でしたし、6年生で3級合格者もかなりいました。


記者:それはすごいですね。よほど熱心に勉強しないと、3級合格はできないでしょう。
井 :そうなんですよ。当時、小学校では英語教育がなされていないわけですから。そういうことを思い出すとですね、やはり現在の子どもたちは消極的ではないかと思います。当時の子どもたちは、難しい課題にも積極的に取り組んでいましたが、今の子どもたちは「諦め」が早すぎるように思われます。その点が、一番の違いでしょうね。


記者:教える側もありますが、生徒さんの自主性もやはり必要になってくるということなのでしょうね。
井 :ええ。生徒自身に本当に勉強しようという決心がないと基本的には駄目だと思います。


記者:井さんのように埼玉県と東京都の境目にある塾ですと、生徒さんの志望校が都内、埼玉県内、ともすれば千葉や神奈川の私立というようなことがあるかと思いますが、首都圏の塾ならではの苦労や、気をつけておられることはありますか?
井 :そうですね。あ、まず、高校受験もそのシステムが年々変動していますので、私は大学生のバイト講師は採用しないことにしています。首都圏ですから、優秀な学生さんが集まっているのは了解しているのですが、流動的な受験現場においては、ものの知識は教えられても、受験そのものの指導は難しいと思いますしね。
塾風景(画像は、個人保護の立場から特定しにくい形で加工しています。)

記者:確かに、そうですね。
井 :あと、埼玉県であっても東京都であっても、偏差値や内申点でではなく、本当の実力をつけて、目指している高校へ合格させることが、私の使命だと思っています。子どもが本来持ち合わせている可能性を、思う存分、引き出してあげたいんです。



記者:
生徒さんご自身も受験する学校が多くなる傾向にあると思いますが、教える先生の側も、学校ごとの対策をとられるのでしょうか?
それとも、勉強をしっかりしていれば大丈夫だからと、どっしりかまえておられるのでしょうか?
井 :うーん、そうですね。まあ、各高校によりけりですが、難関高校などはその特徴がありますから、それなりの対応策が必要となります。ですが、まあ一般的には基本問題に重点をおいて、しっかり勉強させていれば大丈夫、と、いうか、それしかないと思っています。


記者:基礎が何よりも大切だということでしょうか。
井 :そうです。あの、これは、いつも言っていることなのですが、100点とろうと思うべからず、基本問題は完璧に解きなさい、問題に優先順位をつけて解きなさいと。この三つは、とにかく大事なことだと思いますね。そうすれば、時間の無駄をなくすとともに、正答率にも影響してくるわけです。

 

記者:わかる問題から解きなさいと?
井 :ええ。さらに、手抜ぬきした計算をするべからず、です。


★少子化と親御さんのはざまで

記者:つかぬことをお聞きしますが、先生は子どもはお好きですか?
井 :そうですねぇ。実は、私自身にもよく分からないのです。でも、長年周りに生徒が常にいますので、空気みたいものですね。子どもたちの顔を見て、特に意識したことがありませんが、子供好きかと言われると、多少は......(笑)。


記者:お好きなんですね?
井 :まあ、そうですね。子どもたちといて、ストレスはないですし。自然に笑顔にもなりますし、何より楽しいですからね、仕事が。


記者:引き続き、少し塾の勉強からは話がそれますが、少子化の昨今、子どもさんに関わる現場では、子ども本人との関わりに加え、親御さんとのコミュニケーションが大きな位置を占めるかと思いますが......。
井 :そうです、そうです。子どもよりも、むしろ、ご両親との関わりが重要で、そして難しいものだと思います。これは真実ですね。




記者:俗に言うモンスターペアレンツではないですが、そのようなご苦労やご経験はございますか?
井 :ありますねえ。今も昔もモンスターペアレンツのような親御さんはいらっしゃいますね。そういえば、子どもと一緒に授業に参加されるお父さんもいらっしゃいましたよ。


記者:随分、熱心なお父様ですね。
井 :そうなんですよ。ですから、学校と同じように、毎月、試験的に公開授業をした年もありました。


記者:毎月ですか! 大変そうですが、なんか楽しそうですね。
井 :はい。で、やってみたら、時としてそのことが利点になったこともありましたね。つまり、今、塾ではどんなことを学習しているかがご家庭に明確に伝わり、あれだけの講義を受けて、なぜ理解できないのかとか、前よりも学校のテストの点が高くなるのは当たり前だとか、家庭での学習のあり方をお子さんの立場になって考えるきっかけにしてくださった親御さんもいらっしゃいましたね。


記者:熱心な親御さんの態度が、よい方向に作用すると、学習効果もあがるのでしょうね。
井 :そうですね。逆に、こういうこともありました。今度は苦労したケースなんですが......。


記者:はい。
井 :体育推薦を狙っているなど、特別なケースの受験生も少なくないのですが、親御さんVS子どもさんと受験対策をするこちら側との意識あわせに苦労したことがありました。あのときは、子どもさんのほうが冷静で、自分の立場や偏差値、内申点などについてよく理解していましたね。ですから、子どもさんが自力で親御さんを説得し、自分に合った学校を受験し、活き活きと楽しい学園生活を送っているというケースもありましたね。あのときは、実に私も困りました。お母さんとしては、とにかく行かせたい学校があったのでしょうね。


記者:少子化の時代ですと、親御さんの期待をひとりで背負わなければならないお子さんが多いでしょうしね。
井 :ええ。あと、今も昔も、通塾していれば成績が上がるという考えの方がいらっしゃいますが、そうではないということですね。大事なことはいかに自分の机で復習の繰り返しをし、定着させるかだと思います。


記者:家庭での学習が大切だと......。
井 :そうです。とにかく私は、家庭学習が最も重要だと認識しています。塾はですね、単に学習用具の場所ではないかと思うんですよ。成績のアップは「教科書の完全習熟であり、読むこと、書くこと」に尽きると思っています。


★宿題は家庭学習・遊んだだけ勉強を


記者:これまで印象に残った生徒さんや、とても嬉しかった出来事、塾をやっていてよかったと思われたのは、どんなことでしたでしょう。
井:ああ、それは、何度も経験していますねえ。子どもたちと関わる仕事は、嬉しさの度合いが違うような気がします。そんななかでも印象に残っているのは、中学校からは「何処も受かりません」と言われた生徒が、第一希望に合格したときですね。


記者:それは、素晴らしい! 大変な努力をされたのでしょうか。
井 :ええ、もちろんです。見えないところで相応の勉強をさせていましたから、私は合格して当然ではないかと驚きはしませんでしたが、あの生徒は本当によく頑張ったと思います。


記者:それこそ、先ほど仰った、子どもたちの可能性を引き出されたということですね。
井 :ま、そうかもしれません。この生徒のほかにも、毎年、目標に向かって諦めずに努力をし、高校や大学に合格する生徒が大勢います。やっぱり、志望校に合格した生徒たちの知らせを受けた瞬間が、本当に塾をやっていて良かったと思うときです。


記者:中学校といえば、受験勉強と部活は両立できるでしょうか。
井 :そうですね。まず、部活を止めたから勉強するかというと、それは甚だ疑問です。子どもたちにとって、学校生活の中での部活は唯一の楽しみの場であり、競い合う場であり、横の関係、縦の関係など、教科書で学べない社会性を身につける場であると思っています。ですから、部活を楽しみたかったら勉強に励みなさい。成績が上がれば部活も一層楽しくなるからと言って指導しています。


記者:部活が好きでたまらない生徒さんにとっては、嬉しいお言葉でしょうね。
井 :はい。でも、確かに体力的にも時間的に大変かと思いますが、それでも日曜日は体を休めるためにあるのだからゆっくり休むように言っています。


記者:宿題だけはしっかりやってきなさいという感じですか?
井 :宿題は家庭学習です。ですから、遊んだ分だけ勉強もしなさいということです。幸いに生徒たちはよく守って、家庭学習をしてくるようです。


記者:偉いですね!
井 :私のことが「怖いから」という生徒もいます(笑)。


記者:少々、プライベートなことをお聞きしてもよろしいでしょうか。先生には大学生のご子息がおいでと伺っていますが、塾の仕事は子どもたちが学校から帰ってからの時間に行われます。ご子息とのコミュニケーションや家庭サービスなどで、サラリーマン家庭とはまた違ったご苦労があったと思いますが......。
井 :そうですね。それなりに、生活時間帯がずれることによる苦労はありましたね。彼が小さいときは旅行にも行っていましたが、小学校の授業参観も6年間いきましたし、運動会も行っていました。でも、仕事の都合で途中で帰宅していましたので、たまたま彼の参加する競技のときにいないときもあったので、彼としては、父親が来ていたことはわからなかった、と、いうこともありました。でも、よく見にはいきましたよ。あとは、スケート、水泳と一応教えましたしね。


記者:もし、埼玉県以外で塾をしながら暮らしていくとしたら、どこに行ってみたいですか? また、塾以外で、どんな仕事をしたかったですか?
井 :そうですね、どの県でもいいのですが、僻地に行って子供たちに教えたいですね。あとは、昔のように英語だけの英語専門塾にしたいと思うこともあります。私は、危険物取り扱い、第二種電気工事士の資格をもっているのですが、今は行政書士の勉強を始めたいと思っています。あと、音楽や音響も趣味ですから、その趣味を生かすような形で、まだまだやってみたいことあります。


記者:ところで、これから受験シーズンは本番を迎えるわけですが、受験生や親御さんに、これから本番まで、何か注意してほしい点はありますか?
井 :注意点としては、健康第一ですね。今年は新型インフルエンザの流行などもありますから。あと、この時期になりますと、単純な豆知識で高校の価値を評価するご家庭や仲間が出てきます。でも、決して振り回されず、自らの足で高校に出向いて学校を見て、自分の心で理解して欲しいということです。


記者:心も肉体も元気に、ということでしょうか。
井 :はい。さらに、内申点が足りなければ、実力をつければ良いわけですから。諦めずに基本に忠実に頑張りなさいと言いたいです。


記者:最後に、塾、子ども、学校、少子化、受験などをキーワードとして、何か、思い浮かぶことがあれば、何でもご自由に仰ってくださいませ。
井 :「古今変わらず、決して諦めるな」でしょうか。最後に「自ら学び、自ら考える力」これが私の信条です。


記者:ありがとうございました。



取材/執筆:浜田実弥子】



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